クラゲレコード

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【本】「彼女は一人で歩くのか?Dose She Walk Alone?」(講談社タイガ)は良質なSFファンタジーだ。

恥ずかしながら、森博嗣作品を本著ではじめて手に取った。よくよく調べてみると、この作品に出てくる「ウォーカロン」などは、前作でも登場しているようで、そういった意味ではファンにとって入り込みやすい作品なのかもしれない。しかし、はじめての私でも楽しく読むことができた。好きな作品だ。

どんな小説か?

本著は、「Wシリーズ」としてシリーズ化が決まったおり、既に何本かは完成している。その最初の作品となる。
舞台は、人間とアンドロイド(ウォーカロン)が併存する近未来。人工細胞の発達から、人間はウォーカロンに、ウォーカロンは人間に近づき、区別が至極曖昧な世界ができる。その世界で、ある研究者をめぐって起こる事件の物語だ。

「人間性とはなにか」を考える。

このような世界観なだけに、「登場人物が人間なのか、ウォーカロンなのか」が、常に頭の中で疑問として起こり続ける。これは主題として常に根底にあるため、「人間性とはなにか」を考え続けることになる。ウォーカロンに近い人間と、人間に近いウォーカロンを区別する術はなにか。行動原理やそれぞれの動機に違いを見出だすことはできるのか。物語の上で想像をめぐらせ、思考実験に近いイメージを抱く作品だ。
しかしながら、その区別への疑問がそもそも意味を為さない可能性とも常に隣り合わせだ。区別することは本当に必要なのか。主人公である研究者の主観を通じて、マクロ的・ミクロ的に考えることになる。

まとめ

一定のミステリィ要素はありながらも、全体として近未来の工学を中心としたSFファンタジーのような作品だ。その世界観に触れるだけでも楽しい。次作も近々にリリースされるとあり、自分にとって楽しみなシリーズになった。

【本】「石の記憶」(文集文庫)はテンポのよさに惹きこまれる。

小説って普段は読まないんだけどね。土偶が好きってだけで表紙に惹かれて買ってしまった。「石の記憶」、作品の世界に惹きこまれる作品だった。神話とか好きな人は楽しいかも。 

石の記憶 (文春文庫)

石の記憶 (文春文庫)

 

 どんな小説か?

本著は、著者が過去に執筆した未収録作品をまとめた短編集のような構成になってる。前半は短い読み物、後半は神話をモチーフにした少し長めの伝奇もの。ホラーやある種のスピリチュアルな要素がテーマとして垣間見える作品が多い。

9篇が収録されてて、古くは初出が1995年のものも。そのうち、最後に収録されいる表題作「石の記憶」が全体の半分程度を占めてる。

テンポのよさに惹きこまれる。

正直、展開がある程度読めるし、結びに疑問を感じるものも多い。それでも惹きこまれる。短編小説(というよりもむしろショートショートとも言える作品もある)は、余計な描写をなるべく排除して、平易な描写が好まれるけど、本著はまさしくそれだ。短く刻まれたリズミカルな表現も目立ち、そのテンポのよさからかその世界に没頭できる。

個人的に好きだったのは「さむけ」「石の記憶」の2篇。「さむけ」は24ページととても短い作品だ。ある男が不意に知り合った男に、マンションの留守を預ける。その中で起こる奇妙な点を考察していく物語。その世界の緊張感もさることながら、場面で主観が転換する構成も面白い。また、「石の記憶」は一言でいえばオカルト時代物だ。先史時代や神話を題材とする際はしばしばあることだけど、そういった作風に引っかかりを覚えるのであれば、イマイチかもしれない。それでも、ロマンを感じられるような内容だと思う。そもそも自分が、神話とかオーパーツとか超古代文明が好きだから楽しいだけ、というのも否めないところではあるけど。

まとめ

トンデモ展開!と思われるようなところもあるかもしれないけど、細かいことは置いといて、そのテンポのよさに身をゆだねるのが正しい読み方なのかもしれない。面白いよ、石の記憶!